【狩人傾奇】其ノ一

広大な平野に佇む巨大な建造物。

乾いた風の吹き込む「闘技場」と呼ばれるそこに、一人の男が立っていた。



名をKaBuKi。



つい一月前、存在そのものが天災と言われる「老山龍」撃退の任務を受け、派遣したギルドすら予想していなかった「撃破」という結果を出した男である。結果、男は英雄と持て囃され、「特別任務」と称された命を受け、この場にいる。











闘技場より距離にして500メートルほど離れた設営地にて



「旦ニャ、今日もいい狩り日和なんだニャ」



黒毛に白斑のメラルー、スコットがKaBuKiの膝元ほどにある口で喋る。



「あぁ、こんな仕事が無けりゃ釣りで一日潰したい気分だな全く」



本来顔全体を覆うであろう、蒼い兜のフェイスカバーを開けた欠伸混じりの表情は、英雄と呼ばれるには全く緊張感が無い。



空は雲一つ無い快晴。地平線の端まで青い空が広がっている。



KaBuKiは干し肉を一口噛み千切り、手に残った肉も口へ放ると



「さ、じゃあお仕事お仕事。スコット、荷物を頼むぞ。それと今日の晩飯は…獲物は聞いてないが、まぁいずれにしろ狩った竜肉だ。焼く準備もしておいてくれよ。」

「任せるニャ!」



言うとKaBuKiは左手でフェイスカバーを落とす。

身の丈を越えた大刀を携えた蒼い姿が、闘技場の中へ飲み込まれる。











闘技場の中央に立つKaBuKi



『しかし…飛竜相手に何でここなんだ?こんな人工物に竜が向こうから来るとも思えねぇがな…』

と、思い巡らせる刹那



「ようこそ我らが英雄、KaBuKi君!」



「!?」



振り返り頭上の高座を見上げると、10人前後だろうかの衛兵、豪奢な服を纏った領主、他役人ら数名が座していた。



「失礼、形式上ギルドを介した仕事という形で君を呼ばせて頂いたが、今回は戯れのようなものだ。君の英雄たる活躍を是非とも直に拝見したくてね。」



KaBuKiの耳に話は入っていない。

領主達の存在以上に彼の目を引いた物がある。



巨大な卵である。



領主らの前に据えられた卵は、幾度か見たことがあるだけに確実に飛竜種の卵である事、そして今回の任務をKaBuKiは即座に理解した。



『なるほど、下衆共の道楽に付き合えってわけか…そりゃ飛竜(ママ)も来るわな』



小さな舌打ちを吐く。









領主の長く続く高説、役人共の領主への票稼ぎを、兜に隠れた欠伸の表情で流すKaBuKi。

が、その「臭い」に瞬間的に我に返る。竜を狩り続けてきた人間なら嫌でも覚える「臭い」。多くの獲物を食らい、様々な生命が混ざり合った特殊な「臭い」。

KaBuKiは咄嗟に空を見上げる。空には大地を照りつける太陽しかない。いや、太陽の影に見えた「それ」が僅かずつ迫ってくる。



『マズい…!』

「逃げろお前等!」



急に声を張り上げたKaBuKiに、戸惑い上下左右を見回す衛兵達と驚き肩をすくめる領主達。

次の瞬間。





【ズウウウウゥゥン】





金毛を舞わせながら降り立った巨大な金竜。

着地の風圧から身を守りつつも、特徴的な体毛からそれが雌火竜「リオレイア」である事を即判断する。



「飛竜ってのは予想通りだが…まさか御伽噺に聞いた程度の『ゴールドルナ』が相手とは予想以上だなこりゃ」



本来は緑色、亜種に桜色が一般的なリオレイアであるが、極めて稀な亜種である金色竜、さしずめ竜の女帝と呼ばれるゴールドルナである。



KaBuKiは深く息を吐き出す。



「臆してもしゃーねぇな。竜は竜だ、死んだつもりでただ狩るのみッ!」



いつもの掛け声と共に、背負った刀の柄に手をかけ構える。









とりあえずウガのマネ('∀`)