【狩人傾奇】其ノ二

広大な平野に佇む巨大な建造物。

「闘技場」と呼ばれるそこで、種族の違う狩人同士が睨み合っている。



KaBuKiと金竜ゴールドルナ。



ふと金竜が何かに気づき、首を伸ばしKaBuKiの頭上に目をやる。

卵だ。



【ギュロロロロロ…】

唸りながらしばし目を細め、再びKaBuKiに目を見開き睨み付けると



【ギャララロロロロロロロォォォォォォォォォ!!!】



火薬が無いだけの爆発とも言える凄まじい咆哮。

空気だけでなく大地から脚を伝って体全体を音が揺らす。

KaBuKiはちらりと高座を見る。領主達はもう逃げたようだ。ほっと軽く目を緩めるKaBuKi。慣れたハンター達ですら身をすくまずにはいられないこの咆哮に、並の人間なら気当たりだけで倒れてしまう。



その一瞬、KaBuKiの意識が外れるのを見逃さなかったかのように、金竜は巨大な脚で大地を踏み切り「臭い」の元である牙を剥き出し突撃する。



「来るか」



自分を捕食しようと一歩ごとに土を抉り出し突進する相手を前に、右肩口から伸びる大刀の柄を握る手に力を込める。

相手の色が違おうと、KaBuKiはリオレイアという竜の習性を知り尽くしていた。数メートル手前まで目一杯引き付け、素早く避け、そして斬る。それを実行するだけだ。



【ギョルロロォォォォ!!!】



上顎と下顎の甲高い衝突音を響かせ、金竜の顎が空を噛み切る。

避け、動き、金竜の尾の元へ潜り込んでいるでいるKaBuKi。

一振りで岩石をも粉砕する厄介な尾をまずは切り落とさんと、渾身の力で大刀を振りかぶっていた。セオリー通りだ。イメージは完璧、そして動きも完璧。



大刀を打ち下ろそうとした瞬間、KaBuKiは本能的に背の方より凄まじい「乾き」を感じた。空から自分に向けて真っ直ぐに空気が乾き、それは熱に変わっていく。



「くっ!」



振りかぶった体を無理やり翻し、左前方へ向かって回避の体制で飛び込む。



【ズゴォォォン】



火球が着弾、地面が弾け、土が飛び、煙が舞い上がる。

直撃こそ免れたものの、その爆風を受け地面に転がるKaBuKi。

頭を左右に振り首の調子を確かめつつ、膝で立ち上がろうとした瞬間



【ドコォッ】



たった今切断しようとした金色の尾で右半身を打ち付けられ、石の壁に叩きつけられる。



「ごッ…は…!」



吹き飛ばされたKaBuKiの視界に、口元から火炎の溢れる銀色の竜が降り立つのが見えた。リオレイアと違い体毛の無い、雄火竜リオレウスだ。

火竜を主な獲物としていた時期もあったKaBuKiだが、赤や蒼は数あれど銀色の竜を実際に見るのは初めてだった。



『く…嫁が嫁なら旦那も旦那か、シルバーソルまで拝めるたぁな…』



【グロロロロォ】

【ギュラロロ…】



銀竜と金竜は互いに無事を確認するかのように唸った首を軽く交差させる。



両掌を両膝で支え、何とか立ち上がったKaBuKi。

ベルトに括られた親指大の小瓶一つ、ポーチから橙の実一つを手際良く出し、フェイスカバーを半分開き小瓶の液体と共に実を飲み込む。一瞬体が熱くなり、代謝の上昇を実感する。



「いっつつ…我ながらよく死ななかったな… さて、一頭でも微妙な相手が二頭同時。このオシドリ夫婦をどうしたもんだか…」



呟きつつも、無意識に近い状態で後ろ腰のポーチを探りながら打開策を考える。ハンターとしての本能と言ってもいい。

持ち直したKaBuKiを二頭は再び睨み付け、銀竜が羽ばたき金竜は左足の爪で大地を掻きだす。



『あぁそう来る…参ったねこりゃ。まぁ取り敢えず…』

「コレでも拝んでろ!」



何かをポーチから取り出すと同時に頭上に放り投げる。そのキラキラと光を放つ玉を、銀竜金竜共に目で追う。そして



【シュパァァッ】



【グロロラァァァァァ!!!】

【ギャロロロロロロォ!!!】



太陽をも眩ませる強烈な光が闘技場の隅々まで放たれる。

浮遊していた銀竜はたまらず地に落ち砂塵を巻き上げ、金竜は目を塞ぎ苦悶の表情でのた打ち回る。



「ぃよし成功ッ!まずは厄介そうな…!」



獲物を銀竜に絞り、KaBuKiは一気に駆け込んで行く。